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東京家庭裁判所 昭和62年(家)11108号 審判 1987年12月17日

参考 カナダ国ブリティッシュ・コロンビア州養子縁組法につき「家裁月報」28巻10号231~241頁

申立人 マーク・エドモンド・パーシー

申立人 サリー・メリル・パーシー

未成年者 新田二郎

主文

申立人らが未成年者新田二郎を養子とすることを許可する。

理由

1  申立ての要旨

申立人らは主文同旨の審判を求め、申立ての実情として、申立人らは未成年者の兄と姉とを養子として引き取り養育監護しているが、未成年者も養子として育てたいので養子縁組の許可を求めると述べた。

2  当裁判所の判断

関係戸籍謄本、関連記録(当裁判所昭和○○年(家)第○○○○号、昭和○○年(家)第○○○○、○○○○号各養子縁組許可事件)、家庭裁判所調査官の調査報告書、申立人らの審問の結果によれば次の事実が認められる。

(1)  未成年者は父新田誠二と母同真子との間の二男であり、姉裕子(昭和49年4月8日生)、兄陽一(昭和51年7月3日生)がいる(姉及び兄はいずれも現在パーシーの氏を称している。)。父誠二は昭和59年12月頃未成年者らを放置したまま所在不明となり(昭和60年8月16日審判により親権を喪失した。)、母は病床にあつて未成年者らを監護することができなかつたところから、未成年者は昭和61年3月18日ノルウエー国籍を持つラーゼン・ビイヨン、同アンドリー夫婦と養子縁組し、裕子及び陽一は昭和60年12月9日申立人らと養子縁組し、それぞれの養親夫婦のもとで監護されてきた。

(2)  未成年者は昭和59年12月頃、前記ラーゼン夫婦に引き取られその実子とともに同夫婦に可愛がられて育てられてきており、同夫婦の監護に格別の問題があつたわけではないが、未成年者の姉と兄の養親である申立人らは兄弟を一緒に育てるのが未成年者にとり幸福であり健全な成長に役立つと考え、ラーゼン夫婦にその旨申し出でたところ、同夫婦もこれに同意をし、未成年者及びその姉、兄も同居を希望したので、未成年者は昭和62年6月17日から申立人宅に引き取られて暮している。未成年者はすつかり申立人らの家庭になじみ、兄弟とともに生活を続けることを望み、申立人らも未成年者を養子として今後も継続して監護養育する意向である。

(3)  申立人らはいずれもカナダで出生し、昭和41年(1966年)8月20日婚姻し、昭和43年に来日して以来、大学等で英語を教える傍ら自宅に教会を開設しキリスト教の布教活動に従事してきたものであり、肩書き住所地で安定した生活を営んでいる。申立人らは実子1名を有するが、家庭的に恵まれていない子を養育したい意向を持ち、未成年者の前記姉及び兄のほか富岡孝一(3歳)をも養子として監護しているが、未成年者らに愛情をもつて接し、同人らを適切に監護養育するに十分な熱意、能力を有している。なお、申立人らは将来カナダに帰国する積もりであり、我が国に永住する意思を有するものではない。

ところで、本件は渉外養子縁組事件であるが、申立人ら及び未成年者いずれも我が国の東京都内に住所を有するので、我が国の裁判所が国際的裁判管轄権を有し、国内的には当裁判所の管轄に属するものと解される。

次に、養子縁組の準拠法は、法例19条1項により、申立人らについてはカナダ国ブリティッシュ・コロンビア法、未成年者については我が国の民法である。なお、法例29条による反致の成否が問われるが、カナダ一般の国際私法の明文の規定は見当たらず、一般にケベック州を除くカナダの諸州の法体系は英国のコモンローを継受しており、人の身分に関する国際私法についても英国の国際私法と同様の原則がとられているものと解され、これによれば養子縁組は養親のドミサイル(domicile)がありかつ養親と養子が居住している地の法律によるべきもので法ると解される。申立人らは前記のとおり我が国に居住しているけれども、その職業、意思等に照らすと、申立人らは我が国に永住する意思を有するものでないと認められるから、我が国にドミサイル(domicile)を有するものではないものというべきであるから、本件について反致は認められない。

そこで、前記各準拠法による養子縁組の要件充足の有無をみる。未成年者については民法所定の実質的要件(民法798条を除く。)を具備していることが認められ、申立人らについてはブリティッシュ・コロンビア法の要件を具備しているものと認められる。なお、同法によれば、養子縁組は裁判所の養子縁組命令によつて成立するものであるが(9条1項)、裁判所のこの権限は法所定の養子縁組の要件の存否、縁組が子の福祉に合致するか否かの審査を目的とする点で、我が国の家庭裁判所による未成年者の養子縁組の許可と同性質の機能を持つので、本件では、前記の養子縁組命令は、家庭裁判所の許可をもつて代えうるものと解される。そして、前記認定事実及び家庭裁判所調査官の調査報告書によれば、本件養子縁組は未成年者の福祉に合致するものと認められるので、申立人らが未成年者を養子とすることを許可するのが相当である。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 宗方武)

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